ひょん

「音のある休日」#22

April 22nd, 2010

「カーリ」 アレハンドロ・フラノフ

Alejandro Franov Khali インドのシタール、パラグアイのハープ、アフリカのムビラ(親指ピアノ)などを使い、アルゼンチンのマルチ・ミュージシャンが演奏するCD。しかし、一昔前の民族音楽とは一線を画している。いわば、彼の内なる世界を漂うような感覚といえばいいのか・・。時々聞こえる女性ヴォイスがある種の浮遊感をたたえていて、いつまでも浸っていたくなるようなサウンドである。
 フラノフの名前は、ファナ・モリーナという同じアルゼンチンの女性アーティストのアルバム制作でも知られている。マニアックなのに広がりがあって、様々な風景を連想させてくれるところが魅力。タイトル「カーリ」とは、フラノフの祖父の故郷クロアチアにある島名だとのこと。まるでロードムービーのようだ。
(西日本新聞411日朝刊)

「ごめんやす」

April 3rd, 2010

Rimg0035-1 大阪はやっぱり濃い。又そこが面白い。それにくらべると、東京は一見アッサリ。でも、日本中の野心家が集まっているやもしれぬから、ちょっと用心しながら付き合う。大阪は地の人が多いせいか、初対面でもドンドンつっこんでくる。まあ、今さらの東西分析をしたところでしようがないのだが、今回の旅で、僕自身もやはり関西以西人であることを思い知った次第。
 午前中に着いて、まずは懸案だった家具屋を見学へ。京阪に乗って下町風の駅で降り、商店街をテクテク歩く。ユニークな看板が愉快。「頭のプロフェッショナル」って、脳科学系かと思いきや理髪店だし、「生まれたてのパン」ってのも言い得て妙。途中で地図を見るため立ち止まっていると、おばさんが「なんか探してはるの?」と親切な声かけ。くだんの家具屋を尋ねると「すぐ先にポリボックスあるから」と、パンクな返答。交番で地図を指し示すと「ああ、最近よーけ人が来てるとこやろ」と、お巡りさんも話が早い。目当ての家具屋は、カフェや自宅と隣接した一画を占めていてまるでちょっとしたコミューン。オリジナルの家具も良かったけれど、なによりもそのプレゼンスに驚いた。
 お昼はH氏に案内され、彼が20年前から通っているという梅田の商店街にあるお好み焼き屋へ。しっかりボディのトラッド味を堪能したのだが、焼きそばの食べ方がユニーク。それだけでも美味しいのだが、あえて溶き卵に浸けて食すのがH氏の定番らしい。もちろん、裏メニュー。まるですき焼きのようで、不味いわけがないが、ちとくどいかも。食べ終わり、狭い通路を出口へ向かう途中で店主らしきおじさんとすれ違いざまに聞こえたつぶやきが忘れられない。低い声でひとこと、「ごめんやす」。待てよ、これってパリで以前よく聞いた「パルドン」に近くはないか?最近はめっきり聞かなくなったけど・・・。

念願かなう。

March 31st, 2010

Rimg0192 大阪へ行ってきた。久しぶりだったこともあって、とても面白かった。信頼している友人達オススメのショップを訪れ、オーナーやスタッフと話をし、様々な刺激を受けることがとても大事なことだと、今さらながら思った。商品構成はもちろん、ディスプレイ、接客(というか、応対)、なによりもその店ならではの「視点」みたいなことなのか。ひとつひとつを挙げるときりがないのだけれど、たとえばgrafで見た岡田直人の陶器。以前から「一二三(ひふみ)」という、直火OKな調理鉢が好きでorganでも取り扱ってきたのだが、今回初めてテーブルウェアをまとめて見ることができた。ヨーロッパ陶器の影響下にあっても、どこか日本、もしくはアジア的な気分が感じられ、とても惹かれた。やはり、白い釉薬というのは奥が深い。白といっても、作家によってその白は自分だけの色なのだ。もうひとつ、やはり陶器作家なのだが、こちらはおもにオブジェ、それも鳥が素晴らしい。以前grafの壁一面を飾っていた鳥たちに魅了され、いつかorganでもぜひ取り扱いたいと片思いしていたRIE ITOの作品だ。北欧陶器に対するバランスの取れた姿勢が感じられ、そのうえに彼女が抽出した造形センス(それもやはりアジアの美意識といっていいような気がする)が加わっているのだからタマラナイ。また、陶器のボタンやブローチなどのアイテムにも確かな手の跡が残っていて、女性ならずともつい触手が伸びてしまいそう。念願だっただけに、取り扱いが始まりとても嬉しい。ただし、ひとつずつ手仕事ならではの作品だけに、店に来て手にとっていただければ、と思っている。

「音のある休日」#21

March 28th, 2010

Shione 湯川潮音 / Sweet Children O’Mine
初めて湯川潮音の歌声に接したとき、我知らずドギマギしたことを覚えている。少女期には聖歌隊で歌っていたという彼女のたおやかな声が、明瞭な日本語となって真っ直ぐに耳に届くと、逃げ場がないような気がした。受け止めたいが、果たして自分に出来るのだろうか?という思いに駆られた。
 ミュージシャンの父のもと、幼少時からアメリカのロックなどに親しんでいた彼女は、今回初の英語によるカバー・アルバムを発表した。「ドント・ウォリー・ビー・ハッピー」など、いつかどこかで聞き覚えのある曲が、フォーキーな演奏をバックに伸びやかに響く。「自我を持ってしまった天使の声」とでも言えばいいのだろうか。癒されるのを待つのではなく、みずから癒す勇気がわき上がってくる。
(西日本新聞328日朝刊)

「音のある休日」#20

March 15th, 2010

Kevin Barker Sleeve 「ユー・アンド・ミー」 ケヴィン・バーカー
 1967年、ニューヨーク近郊の芸術家村ウッドストックにある通称ビッグ・ピンクの地下室で、隠遁中のボブ・ディランはザ・バンドとセッションにいそしんでいた。この地が、その後行われる史上最大の野外コンサートで歴史に名を残すことになるとも知らずに・・・。このアルバムを聴きながら、そんなことを思い出してしまった。
 40年以上の歳月を経てまた、長髪にセルロイドの眼鏡をかけた若者の歌に音楽の力を感じている。その内省的な歌声は仲間と一緒だからこその響きなのだろう。コンピューターに頼らない生身の演奏だ。彼は、自分たちの音楽コミューンのツアー映画も撮っているらしい。観てみたいものだ。
(西日本新聞314日朝刊)

As is

March 11th, 2010

Img 0184 パリでお世話になってるモダン家具店のピエールさんが、凄いコレクターが近くにいるから紹介しようか、と言ってくれた。ところが、あいにく今日は撮影があっていて、モデルやカメラマンそれにロシアのマフィアもいるヨ、とイタズラっぽく笑った。初対面だと構えてしまうに決まっているから、かえって好都合だと思いお願いすることにした。歩いて5分といっていたけど、最近足を痛めてしまい、杖をつきながらの彼と一緒だからか、けっこう歩いた気がした。着いてみると、雑然としたガレージみたいなところだった。フニャっと曲がったアルミ椅子を指さし、スタルクだとつぶやいた。奥に進むと、古びた壁一面に布袋(実はすべてセラミックで、誰それの作品らしい)みたいなものがかかっていて、その前に映画「トラフィック」に出てきそうなオモチャみたいな車が置いてある。ちょうどランチタイムなのか、化粧をした女性や、スタッフがプルーヴェのスタンダード・チェアに座ってお昼を食べている。黄色でかなり塗装が剥がれているのが5、6脚、無造作に置いてある。座っている人達は、この椅子がマニア垂涎の的だと分かっているのだろうか。すると、黒いスーツを着た2人連れのうちの1人が、突然話しかけてきた。「向こうにある椅子を見たか?あれは、とても珍しいフィリップ・スタルクの椅子だ」と言っているようだ。ロシアン・マフィアは椅子の買い付けに来たのだろうか?オーナー氏は「自分はディーラーではない。すべて見つけたときのままの状態である。リペアなどは一切しないのが主義である」、という旨をくりかえし説明してくれた。僕も”As is”が好きなので、まったく同感である。部屋のあちらこちらに見たこともないオブジェが散らばり、棚には資料や本がギッシリ。パリには色んな人がいるもんだ。次回は、ゆっくり会う約束をしておいとました。

「音のある休日」#19

March 2nd, 2010

Mulatu 「ニューヨークーアジスーロンドン」 ムラトゥ・アスタトゥケ
 エチオピアのジャズ、それも1960〜70年代に録音された音源である。様々な楽器をあやつるファンキーで土着的な演奏が、摩訶不思議な雰囲気を伝えてくれる。
 ロンドンやニューヨークへ渡り、当時最先端だったジャズやラテンを独自に吸収したはずなのに、彼のサウンドはなぜかオリエンタル。西洋音階から「ファ」と「シ」を抜いた「ペンタトニック」と呼ばれるメロディーは、我が演歌にも通じるもの悲しげなムードを醸しているようだ
 アフリカからアメリカへ連れてこられた黒人が生みだしたジャズ。それが逆輸入され、ふたたび現地の音楽と混交する。その時、起ち昇るルーツにはドキリとさせられる。
(西日本新聞228日朝刊)

「音のある休日」#18

March 2nd, 2010

「エブリボディ・ラヴズ・ユー」   ボビィ・アンド・ブラム

Bobby 「アンニュイ」という言葉ほど、このCDにピッタリのニュアンスはないだろう。歌っているのはスウェーデン人女性、演奏はドイツ人男性。ベルリン在住の静かな男女ユニットである。
 一見気だるそうなボーカルは、クセになる程心地いい。演奏はギターによるアルペジオと簡素なピアノやオルガン。そして密やかな日常音。いわゆる「エレクトロニカ」と称される音楽なのだが、実際には生音の響きを大切にした音作りがなされている。
 弱々しい音楽なのかもしれないが、「弱さ」というのも特徴であることに変わりはない。時には「強さ」よりも深い表現となる。まるで”つぶやき”のように、寄り添ってくれる音楽だ。
(西日本新聞214日朝刊)

スペインの焼き物。

March 1st, 2010

Rimg0035 海外買付ツアーは、楽しいが、やはり疲れる。始終目がキョロキョロしているからだろう。道を間違わないよう、面白い商品を見逃さぬよう、はたまた犬の糞を踏まぬようにと、気を張って歩いているからかもしれない。歩くと言うことは、回りの景色が一歩一歩変わると言うこと。しかも、見たこともない景色が。したがって、常に目をカッっと見開いているのだ。試しに、隣を歩くウチの奥さんを観察すると、確かに目を開けたままひたすら前進姿勢である。しからば、意識的に瞬きの回数を増やせば少しは疲れが減るだろうか?そんなことを思いつき実行したけれど、長続きするわけがなかった。
 バスクの町は比較的のんびりだったと思う。それが、バルセロナにやってきた途端に目が開放状態に舞い戻ってしまった。スペイン第2の都市はやはり大きい。その上に、ガウディである。あのサグラダ・ファミリアの曲線だらけの構造物には少々グッタリした。もちろん、面白くないとは言わないが・・・。完成にはまだ100年以上はかかるとのこと。諸行無常の世の中で、回りを巻き込んでなんともな力業(ちからわざ)である。
 ところで、僕らのホテルがある旧市街は、例のヨーロッパ特有の狭い路地だらけ。どこも同じような景色で、夜戻るのに、道を間違わないようにするのも一苦労。ところが、犬も歩けばナントカで、帰りしな、ウチのホテルのつい近所に陶器屋を見つけた。いわゆる観光客向けなのだが、入ってみるとかなり広い。様々な意匠の焼き物が地下と、地上2階に渡りギッシリ。見るうちに、スペイン各地の陶器が集められていることが分かる。これはラッキーと、さっそく買付体制に入る。最初は、アレもコレもと欲張ってはいたが、よく考えると明日が帰国。郵便で送り出す時間もないし、手持ちといっても飛行機のマックス20kgにほぼ達している状況なのだ。泣く泣く、グラナダ焼と地元カタルニアのものに絞った。グラナダ焼の素朴な手描き模様は、フィンランドのアラビアを極ナイーブにして沖縄をまぶしたような、なんとも愛らしい風情が気に入ってしまった。イスラムの影響も感じるスペインの焼き物は、ちょっと面白い。

Chillida Leku Museum

February 27th, 2010

Rimg0491 サン・セバスチャンからバスに乗り、30分くらい走った丘陵地帯の一角にバスク人彫刻家エデュアルド・チリーダの美術館があった。日本を出る前日に、たまたま福岡に来ていた編集者の岡本さんから耳打ちされ、俄然行きたくなったのだ。彼は日本で展覧会を観たらしく、作品はもちろん、美術館自体が素晴らしいようだから是非とも!、と薦めてくれた。始発地点ではガラガラだったバスは、途中大学らしいところから乗り込んだ若者達でいつしか満員。そろそろカナー、と思っていると、隣に座っていた小母さんが「次だヨ・・・」、みたいに身振りで教えてくれた。チリーダは有名なのである。それにしても、この親切、他者には嬉しいものだ。バスを降り、小さなトンネルを抜けると、まるで牧草地のような広い敷地が広がっている。受付のある建物を出ると、なだらかな斜面に点在する彫刻が見える素晴らしいランドスケープが待っていた。その先の細い道の向こうに遠く、目指す展示館が見えている。最早この段階で、チリーダの世界に入ってゆくわけである。当初建築家志望だった彼は、1950年にパリで開いた個展で鉄の彫刻家として高い評価を受け、その後ヴェネチア・ビエンナーレを始め、世界中の美術展で数々の栄誉を得ることになる。
Rimg0428-2 そして、1983年、故郷サンセバスチャンの地にあった古い農家を見いだし、回りの土地を少しづつ買い足しながら、世界中に散逸していた作品を集めて自身の作品を展示するスペースにしたということだ。1543年に建てられ、当時は廃墟同然だったという農家は、友人の建築家と一緒にまさに理想の空間となって生まれ変わっていた。石積みの壁に太い木の骨組みが露わな室内には、超ジャストな位置に作品が配置されていて、プライベートでコージーな空気が流れている。ちょうど「バッハへのオマージュ」と題された小さな企画展が行われていて、チリーダが書いた楽譜や文章が展示されていたのだが、その細かな筆跡は巨大な鉄の彫刻と同じ形状をしているように思える。帰り際、ショップでポスターを物色するのも一苦労。どれも素晴らしく、さんざん悩んでしまった。

Museo Chillida-Leku
Bº Jáuregui, 66
20120 Hernani
電話:943-336006 ファックス:943-335959
http://www.museochillidaleku.com/