バリ島をあさる。

 アピチャッポン監督の映画『ブンミおじさん』を観たおかげでジャングルへ行きたくなったのだけれど、舞台となったタイの東北部はまったく不案内なので、多少の土地勘があるバリ島のウブドゥに決めた。一応、短いヴァカンスのつもりだが、鳥取の余韻もあって、インドネシアの民芸などをあらためて見てみたいとも思ったのだ。

 初のシンガポール航空は、噂通りスチュワーデス(って言わないのか今は)のピタッと決まったバティック姿に見とれていたら、あっという間にチャンギ空港着。乗り換えてデンパサールに着いたのは夜の8時くらいだったか。一泊目はスミニャックにあるマデズ・ワルン経営のロスメンを選んだのだが、思った通り、町中にしては静かで部屋も清潔、小さなプールもあって一部屋60ドルとは嬉しい。明日のことを考えて早めに寝床に着いたのだが、ひさびさのバリに興奮したのかなかなか寝付けなかった。
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 翌朝は近くのワルンで朝食後近所をジャラン・ジャラン、早速ロスメンの真ん前にあるファブリック屋でサロン用の古いバティック数枚をゲット。その隣のカゴ屋でもバリの農夫がよく使っているようなフツーの籐のカゴを発見。さい先よろしい。午後イチでチャーターした白タクでウブドゥへ向かう。途中腹が減ったので運転手に旨いワルンを教えてもらい昼食。30分超過したからと、事前に交渉した分にプラスした金額を要求された。
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 ウブドゥで3泊したホテルは、中心部からシャトル・サービスで20分、アユン河の渓谷沿で、申し分ないホスピタリティだった。午前中はもっぱらプールサイドでゴロゴロ、午後は田んぼの畦道をあっちこっち歩いたり、町へ出てあさったり、という毎日。この「あさる」という言葉、実は先日の鳥取ツアーで知った吉田璋也という民芸のプロデューサーの本で出会ったのだ。 河井寛次郎などと一緒に「街に美をあさる会」というのを京都でやっていたらしく、目下気になっている人物。
 「民芸」といえば「無事の美」、つまり「何事も付け加えない職人の仕事」なのだけれど、これがイザ見つけようとすると結構むずかしい。あまたある店先に並ぶ品々は、ほとんどが様々に余計な意匠をほどこしたものばかり。昼間の暑い時間、呼び込みの声を聞き流しつつ「あさる」のはなかなか骨も折れるが楽しくもある。それにしても、民芸をプロデュースするってのは、簡単なことではない。木材が豊富な島だけに、ナイフやスプーンなどカトラリーにはシンプルなものも見つかったが、やはり古いバティックやイカットなどのファブリック類が面白かった。どちらも各地方や種族の伝統的な模様が配されていて、夢中になって探し回った。バティックは、彼らがカリマンタンと呼ぶボルネオのものが素晴らしく、まるでそのままイームズハウスにあってもサマになる。イカットはやはりジャワ島のものが絵柄が独特で、使い込まれた綿の風合いがDOSAの服のような優しさをたたえている。気がつけば、そろそろ夕闇。ケチャを楽しんだ後はカフェ・ワヤンで蜂蜜入りの地酒「アラック・マドゥー」をやりながら、ハーブたっぷりの魚をバナナの葉で包み蒸し焼きにした「イカン・ペペス」で一日が終わった。
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 とまあ、そんな風な感じで半分ヴァカンスな旅があっという間に終わってしまったのだ。そういえば、バリでは目下オーガニックがブーム。ハーブオイルなどのコスメ系はモチロン、レストランやカフェも。ライステラスに囲まれたサリ・オーガニックの自家菜園サラダとライスワインはオススメ。そうそう、肝心のジャングルはといえば、ホテルの部屋から見える景色がそのままジャングルだった。一日中鳥や虫達の鳴き声がこだましていたし、サルやイタチみたいな小動物が木々をすばやく移動する姿も当たり前に目撃できた。あたり一面に魑魅魍魎の気配。月と満天の星々。 そう、そこらじゅう神様だらけだった。