「旅の合間」
今回の旅では、買付の合間をぬって、いくつかのデザイン・イコン的場所を訪ねてみました。それは、ドイツ、デッサウのバウハウスやフランス、パリ近郊にあるコルビュジエのサヴォワ邸など、前々から一度は行ってみたかった場所ばかり。写真や資料ではおなじみなだけに、実際に自分の目で確かめることへの期待はとても高く、また、いずれも期待以上に素晴らしいものでした。
まずコペンハーゲンに着き、いつもお世話になっている家具デザイナーO氏の奥さん、K子さんから聞いたデザイン・ミュージアムへ。電車で2時間半、KoldingにあるTRAPHOLTは、デンマークが誇る名作椅子の数々が展示されている海辺の小さなミュージアム。なかでも、一昨年他界したナナ・ディッツェルのコーナーが充実。オブジェのような杖がとてもカラフルでした。でも、お目当ては、以前から興味があったデンマークのデザイナー、クリスチャン・ヴェデルの展覧会。”MOUDAS SOFA”という座り心地のよい椅子をデザインした人で、復刻された鳥のオブジェで再評価されています。でも、僕が好きなのは子供用のシステム家具。プライウッドを使った可変的な椅子やテーブルは、シンプルで自由度が高く、鳥のオブジェ同様に彼の非凡な才能を発揮した傑作だと思います。このミュージアムでは、もうひとつ意外な発見をしました。アルネ・ヤコブセンのサマー・ハウスが移設、展示公開されているのです。プレハブ風の内部はとてもコンパクトで機能的、工夫されたキッチンが印象的でした。

ベルリンからデッサウのバウハウスへ向かった日はみぞれ混じりでとても寒い日でした。でも、どんより曇った空気の中にあのガラスに覆われた四角い建物がスックと立ち現れたときにはおもわず感動。時代に翻弄されつつ、革新的な方針でさまざまな造形的実験がなされた場が、そこに在りました。ここは、まちがいなく、僕らが現在、生活の中で享受しているデザインなるもののスタート地点のひとつなのです。薄暗い半地下の廊下には当時の木製のロッカーがあり、ここで学んだ生徒や教授たちの足音が今にも響いてきそうでした。それに当時と同じ食堂で食べたランチ。昔もやっぱり、あまりおいしくなかったんだろうなー。すぐ近くの木立の中にあるパウル・クレーやオスカー・シュレンマーたち、教授のための住宅にも行ってきました。外観のモダンさに比べ、2世帯に区切られた中身はコンパクトで、そっけないくらい簡素。食堂も手狭。後述するコルビュジェ設計の広い食堂とは違っています。でも、それまでの装飾過剰な住まいと違ったアパートみたいな部屋はとても新鮮だったはず。階段室などのカラフルなペイントが一際効果を上げていました。
ベルリンにあるバウハウス・アーカイブは残念ながら写真撮影禁止。でも、椅子やグラフィック、タイポグラフィー、建築など貴重な資料はとても楽しめました。なかでも、マルセル・ブロイヤーの初期の椅子があのカンチ・レバー式ではなく、フォークロア風だったのにビックリ、というかやっぱり、と納得。彼らもアーツ・アンド・クラフツの動向にはコンシャスだったわけで、工業化と手仕事の折り合いは、今でも続くテーマです。そうそう、女性写真家ルチア・モホリ(モホリ・ナギの妻でもありました)の作品も素晴らしい発見でした。

パリに来るたびに、「今度こそ」と思いつつ果たせなかったコルビュジエ作品探訪、今回はサヴォア邸とラ・ロシュ邸を訪れ、両方共に圧倒されっぱなしで、いったい写真を何枚撮ったことやら・・。その造形美は、彼が言っていた「住むための機械」というより、「住むためのオブジェ」のよう。あまりにも自由で開放的な空間は、旧時代への挑戦でもありました。一見大胆なようで、実はこだわり尽くした細部は見ているうちにめまいに似た陶酔感を呼びます。それにしても吹き抜け、傾斜した通路、屋上庭園などはもちろん、間取り(といっていいのだろうか)も多彩で、子供だったらかくれんぼに興じてしまうにちがいありません。どちらも富裕層の邸宅ですが、僕はどちらかというとこじんまりしたラ・ロシュ邸のほうにシンパシーを感じました。コルビュジエは、もともと画家を目指していたらしく、絵も素晴らしく、思わずポスターを沢山買ってしまいました。で、余談です。organが入っているビルですが、25年前に無我夢中で建てたわりにはバウハウス、コルビュジェの片鱗が見えてるような気がしました。もちろん、あくまで自己満足にすぎませんが。
買い付けの方もいろんな成果がありました。少しずつですがアップしてゆきますので、お楽しみに。




