暮らしの中に、生き続けるデザイン。
今回は、いつもとはひと味違った旅を体験。
朝早くから歩きづめで、夜はホテルに戻り、部屋でその日ゲットしたものを整理して梱
包という、毎度変わり映えのしない買い付けツアーが、コペンハーゲンでの5日間だけは、まるで別天地でした。
岡村邸では、前述したごとく、連日美味しい手料理はモチロン、ご当地ビールから始まり、まろやかなワインを数本空け、締めは、シングル・モルトのスコッチ。それが、ごく当たり前に出てくるんです。別に、ゲストが、お酒飲めるかどーか、多分、関係なく。そんな時、アイス・ボックスは、ステルトンだったり、ワインのシール・カッターはジョージ・ジャンセンだったりと、それらのアイテムは、まるで毎日の岡村邸の日常の「しぐさ」のように普通っぽいんです。

知人の紹介でお世話になったお宅は、建物がなんと、あのアルネ・ヤコブセンの設計。
現在、三代目になる住人は、デンマークに来て35年、現在、椅子や家具のデザイナーと
して活躍されている岡村孝さんご一家。
敷地1000平米、建物だけでも300平米という広さに包まれたその家は、コペンハーゲン空港からほど近い閑静な住宅地にありました。
夕方に着いた僕らを迎えてくれたのは、孝さんの笑顔と、このゲストハウス主宰でもある奥様、恭子さんの、お手製のデンマーク料理。長女の彩さんもキュートな笑顔で出迎えてくれて、「では、お食事にしましょう」と案内していただいたダイニングには10人は座れそうなテーブル、椅子そして壁際のボード類はみんな孝さんのデザイン。高い天井からは低くセッティングされた2つのPH5から明るすぎない、優しい光で食卓を照らします。
そんな空間でいただいた手作り料理の数々、これがまた美味しいのなんのって…。
通常、買い付けの旅では、ろくな夕ご飯を食べない二人は、歓喜の涙。

ゆったりと夕食をいただいた後、上品な色あいのポット・チェア(!)が並ぶリビングに場所を移し、改めてじっくりとその広いリビングを見渡すと、ヤコブセンがこの家を設計時デザインしたブラケットランプや造り付けのソファ、マントルピース等々、電気のスイッチや細部にいたってもほぼ当時のオリジナルがなにげなく在るではありませんか。まぁ、ほんとになんて素晴らしく羨ましい空間でしょうか。興奮が覚めやりません。アドレナリンが出っぱなしの状態。
会話が進むにつれ、お酒の勢いも手伝って、一見シャイな孝さんがだんだんアグレッシヴに!「モノ売ってるだけじゃなく、オリジナリティを発揮しなきゃ!」みたいな、核心部分の話に及んだところで、僕はあえなくダウン。
12時間の飛行機の疲れのため、ベッドへと直行。「もちろん、organも“その道”目指してますけど…」と言いたかったけど…。

翌日は、早速早朝から買い付け開始。成果は、ぼちぼち。
閉店時間が、異常に早い(5時に閉まる店なんてざら)ため、7時くらいには、岡村邸に戻ると、恭子さんの「お帰りなさい!」の一声で、「ここは一体どこ?状態・・・」(うれしいよね)。なんとなく、ゲットモノの中からコーア・クリントのサファリ・チェアを出すと、「へー、イイじゃない」と、昨夜のキビシかった孝さんとは思えぬ、暖かいお言葉。調子に乗って、あれこれ出すと、「このガラス、だれ?」と、僕らの買い付けに、興味を持ってくれる。
そうこうするうちに、「これ、B&Oの60年代のテレビなんだけど・・」と、地下の倉庫から出てくる、出てくるお宝の数々。ナアーンだ、孝さん、持ってるじゃないスカ。

翌々日、コペンハーゲンの町中にある、孝さんの仕事場へお伺いしました。そこは、いわゆる『骨董通り』と呼ばれる、僕らが買い付けのためにウロウロするヴィンテージ・メッカ界隈にありました。
古いビルの中庭を通り抜けた2階にある広いオフィス・スペースには、もうすぐ日本で発売になる木馬(これは、要注目!)を始め、彼のこれまでの作品の数々が、実に居心地良さそうにたたずんでいていました。
そこは、普通想像する「オフィス」だとか「ショールーム」的な固い感じもなく、でも静かにピンとはった、綺麗な空気が流れている仕事場として理想の空間。
孝さんとともに仕事をしている、デンマーク人パートナーのエリックさんも、孝さんといっしょに、丁寧にいろんな事を説明ながら各部屋を案内してくださって(1フロア全てがおふたりのオフィス・スペースなので、本当に広い!そして奥に行けば行くほど濃密度が高かった…)、仕事中にもかかわらず、珍客にいたれりつくせり。僕らといえば、いろんな話をする中で、しっかり刺激と豆知識を仕入れ、ご満悦。本当にありがとうございました。
一室には、60年代後半、孝さんが遙かシベリア鉄道を経てやってきたこの国で、最初に師事した家具の先生が使っていた木工用の手製の道具箱が、大切に残されていました。
職人魂です。

その後あれよあれよという間に、つごう4泊5日の滞在を終え、僕らは、次なる目的地ヘルシンキへと向かうことになりました。出発の日、買い付けた商品を、いつもは、自力かタクシーでエンヤコラサッと運ぶのに、孝さんが、エリックさんと一緒に郵便局まで自家用車で運んでいただいたり、飛行機までの時間を、オランダ人が入植した古い集落へつれていってくれたりと、この国の歴史をちょっと探訪。
そして、別れの時。それはもう、まるでアノ『ウルルン滞在記』的興奮状態。
異国に暮らす彼らから、今や失われつつある「日本人の心情」を、タップリいただいた気分でした。ヤバイっす、これって。


