Copenhagen – Paris june > july.2001 vol.02
PARIS
コペンから所変わって、ここは花の都パリ。でもコペンでのゆったり感に浸ったあとのパリは、排気ガスで喉をやられるし、なんだか忙しすぎで街も薄汚れて見えてしまう。とはいえ、そこはそれ、独特のヴァイブにあふれていることも確かなわけで、気持ちを切り替えて、パリならではのお宝を求め、いざメトロに乗って出陣!しかし、パリのメトロって、乗り換えが多く、そのつど結構な距離を延々と通路を歩かされるわけ。
その日も、壁のでっかい宣伝ポスターを眺めつつ地下通路をひたすら歩いていると、コンサートのポスターがズラーッと貼ってある。つらつら流し目を送るとその中のひとつに、僕の視線は釘付けになってしまった。なんとジョアン・ジルベルトのコンサートが、オランピア劇場で、しかも5日間というぼくらの短いパリ滞在の間にあるわけさ。一も二もなく、チケットを求めてFNACに走りました。
そして、2001年7月8日、日曜日、PM 9時、ジャック・ブレルがシルビー・バルタンが、そして初めてフランスに現れたあのビートルズがステージに立った、さらにはつい先日、あのアンリ・サルヴァドールの大復活コンサートも行われた「シャンソンの殿堂」オランピア劇場に僕らは足を踏み入れたのです。会場はモチロン満席、中央列ど真ん中の席を取れたことはラッキーとしかいいようがないわけで、興奮気味に開演を待つ。が、が、が、しかし、開演時間を10分過ぎても彼はまだ出てこない、10分どころか20分過ぎても現れぬ、ム、ム、ム???待ちきれずに、ジョアンの曲を歌い出してしまうヤツがいたり、それを「シー!」とばかりに制するものいたりでかれこれ30分も経った頃、ようやく本人登場。
ちょっとくたびれたグレーのスーツにネクタイ、だいぶ薄くなった頭に眼鏡をかけて、どちらかというとかなり風采が上がらない。まるで、政治亡命者だ。そして割れんばかりの拍手の中から、くぐもったような、諦念に充ちたアノ声が聞こえ始めたとき、場内は水を打ったように静かになった。大袈裟ではなく。場内の全員の耳が吸い取り紙になってしまった。
それはその昔、彼が3ヶ月の間バスルームに一人こもり、ギターと歌だけで自分なりのサンバを、まるで錬金術師のように生みだした瞬間に立ち会っているかのようだ。つぶやきにも似たヴォイスと、的確なビートを刻み続けるギターから紡ぎだされる一人っきりの音楽。これこそが僕にとってのボサノヴァなのだ。おなじみの曲が続き、思わずハミングしている僕。と、隣のマダムはなんと、ちゃんとポルトガル語でシンガロングしてる、さすがエトランジェの街、パリ。
そういえば、ジョアン自身が異邦人、もしくは漂白の人ってイメージ。そんなヴァガボンドな生き方とボサノヴァはパリにとてもしっくりとくる。スタンディング・オベーションの嵐の中、アンコールはあのデビュー曲「シェガ・ヂ・サウダージ」一曲で幕。さすがボサノヴァの化身、去り方も潔く、実にあっさりしたもの、「ギター抱えた渡り鳥」ってな風情(?)。まさに、ブラボーな夜でした。




