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“Ever greens / Never greens” ヤコブセン展メモ

May 30th, 2002

 御存じのように、今年はアルネ・ヤコブセン生誕100年。
コペンハーゲンのダンスク・デザインセンターで行われていた展覧会の会期に滑り込み
セーフ・・・おかげさまでで、タップリ楽しんでまいりました。

2002 Jacobsen1

“Ever greens / Never greens”と題されたこのエキシヴィジョン、現在も生産され
続けているプロダクトと、残念ながら生産中止となっているものを各々作品ごとに提示
するという仕掛け。
まずは、彼の作品がいかに普遍性を持ったデザインか、そしてあるものは、なぜ生産され
ていないのかを思わず考えてしまうという実にリスペクト溢れたタイトル。

いきおい、ポット・チェアや310331053108、グランプリなどなど、廃盤モノに
目がいってしまうのも人情ってもの。特に3105(背の細さゆえ、通称「モスキート」
なんて呼ばれてる)の子供ヴァージョンにうっとり。いつかキット、ゲットするぞ、
と密かに決意! 
2002 Jacobsen2

そして、今さらながら圧倒されたのが「シリンダー・ライン」と呼ばれるスチルトン社
のステンレスの美しさ。なんでも、彼が初めてアメリカを訪れた際、マンハッタンの
摩天楼のフォルムにインスパイアーされたのがきっかけだったとか。

2002 Jacobsen3
地下のトイレに行くと、蛇口から何からヤコブセン尽くし。
おしっこするのも勿体ないくらい。
2002 Jacobsen3
そんな中で、今回最大の収穫はビデオで、動くヤコブセンが、しかもエッグ・チェア
に座って思う存分見れたこと。意外だったのは、あの、本でよく見るパイプをくわえ、
蝶ネクタイをした温和な紳士の印象とちがい、実はかなり辛らつだったこと。もちろ
ん、恐いというより、インタヴューアーの質問に、ユーモアを交えながらも、自分の
考えをハッキリと述べるという感じなんですけど。
例えば、50年当時の状況には「街には耐えられない程アグリー(英語字幕直訳)
な色が氾濫している」と唾棄するあたりに、彼がいかに古い様式に対して挑戦的であ
ったかを伺い知れます。有名なSASロイヤル・ホテルに対しても「まるでパンチング
・カードのようだ」という批判があったりと、彼の作品に対する評価も賛否両論だっ
たみたい。

そしてもうひとつ、簡潔で機能的なデザインを好んだヤコブセン・デザインの背景
に、バウハウスの精神が生きているのを、いまさらながら強く実感。

白山陶器、訪問記

May 30th, 2002

少し前から、柳宗理のケトルやカトラリーなどで、“日本で生まれたモダンデザイン”を意識するようになっていた私たちの、前々からのキーワードが“白山陶器”。
福岡から車で2時間も走れば行くことが出来る波佐見にそのショールームがあって、遂にこの前行って来ました。

途中で道を聞くついでに、天ぷら買ったり、野菜買ったりと、のんびりドライブ気分でゆるりゆるり。
が、白山陶器のマークと建物が目に入ったとたんにのんびりモードから一転、気持ちを引き締めいざ出動。
まず私たちを出迎えてくれたのは入り口側面の壁。カラフルな陶器が埋め込まれていて、まわりののどかな風景と意外にも相性ピタリ。で、思わずパシャリ。

中に入ると、おや?誰もいません。その代わりといってはなんですが、ほどよく使い込まれたイームズのラウンジ・チェアとネルソンのラウンドテーブルの応接セットと趣味の良い内装が、ようこそと出迎えてくれました。

Organ Hakusan

それにしても、ホントにどなたもいらっしゃらない。が、すでに周りには、森正洋氏の器やお皿などなど、福岡では見ることのできなかったアイテムがきれいに展示されている。え?イイんですか?こういうのって?と、目パチクリ。でも、心地よいのんびり感が漂うそのフロアは、訪れる誰もがゆっくりと商品を見ることができることを意識しているかのよう。で、ちゃんとフォローもありました。フロアの隅に電話が置かれている、「ご用の方は31番を回してください」。なるほど、何か必要な人にはこれで対応してくれるようです。

案内を受け2階のメイン展示場へ。親切に対応していただいたのはデザイナーの馬場さん。金沢からこの地にやってきた、白山陶器では一番若い才能なのである。森正洋氏の有名な“G型しょうゆ差し”(馬場さんの説明によると、その昔あのカイ・フランクが「しょうゆ差しを作った男に会いたい」ということでここを訪れたという)などの代表作はもちろん、平型茶碗、土瓶などなど、他にも美しいラインを持った無地の食器などを物色、少々興奮気味にフロア内を見て回り、質問を浴びせる私たちに気長に付き合ってくださいました。ほんと、ありがとうございます。

Organ Hakusan2

結局3時間くらい、たっぷりとあれこれ見て、触って、感想は“素ぅ晴らしい!”
白磁の陶器が美しく栄えるように計算された、趣味の良い壁の張り地、プライウッドの棚、テーブル、全体の統一感、そして天井のデザイン。なんでも、ここを造るときに森氏がデザインし、作成したものが多いとのこと。そういえば、壁に貼られた森正洋氏の作品ポスターも、エディトリアルワークが最高!写真撮影も含め全て、すべて森氏自信が手掛けているらしい。彼はマルチな人なのだ。

カイ・フランクやスティグ・リンドバーグなんかに比肩できる、モダン・クラフトの世界が九州のそれも福岡からさほど遠くないところに在るなんて、なんだか誇らしい気持ちになりました。
そんな素晴らしい白山陶器の品々がオルガンでも手に入るようになりました。
一部のアイテムは、Hakusanのページで紹介する予定ですので、是非ご覧ください。

Copenhagen – Paris  june > july.2001 vol.02

July 6th, 2001

PARIS
 コペンから所変わって、ここは花の都パリ。でもコペンでのゆったり感に浸ったあとのパリは、排気ガスで喉をやられるし、なんだか忙しすぎで街も薄汚れて見えてしまう。とはいえ、そこはそれ、独特のヴァイブにあふれていることも確かなわけで、気持ちを切り替えて、パリならではのお宝を求め、いざメトロに乗って出陣!しかし、パリのメトロって、乗り換えが多く、そのつど結構な距離を延々と通路を歩かされるわけ。

 その日も、壁のでっかい宣伝ポスターを眺めつつ地下通路をひたすら歩いていると、コンサートのポスターがズラーッと貼ってある。つらつら流し目を送るとその中のひとつに、僕の視線は釘付けになってしまった。なんとジョアン・ジルベルトのコンサートが、オランピア劇場で、しかも5日間というぼくらの短いパリ滞在の間にあるわけさ。一も二もなく、チケットを求めてFNACに走りました。

 そして、2001年7月8日、日曜日、PM 9時、ジャック・ブレルがシルビー・バルタンが、そして初めてフランスに現れたあのビートルズがステージに立った、さらにはつい先日、あのアンリ・サルヴァドールの大復活コンサートも行われた「シャンソンの殿堂」オランピア劇場に僕らは足を踏み入れたのです。会場はモチロン満席、中央列ど真ん中の席を取れたことはラッキーとしかいいようがないわけで、興奮気味に開演を待つ。が、が、が、しかし、開演時間を10分過ぎても彼はまだ出てこない、10分どころか20分過ぎても現れぬ、ム、ム、ム???待ちきれずに、ジョアンの曲を歌い出してしまうヤツがいたり、それを「シー!」とばかりに制するものいたりでかれこれ30分も経った頃、ようやく本人登場。

 ちょっとくたびれたグレーのスーツにネクタイ、だいぶ薄くなった頭に眼鏡をかけて、どちらかというとかなり風采が上がらない。まるで、政治亡命者だ。そして割れんばかりの拍手の中から、くぐもったような、諦念に充ちたアノ声が聞こえ始めたとき、場内は水を打ったように静かになった。大袈裟ではなく。場内の全員の耳が吸い取り紙になってしまった。

 それはその昔、彼が3ヶ月の間バスルームに一人こもり、ギターと歌だけで自分なりのサンバを、まるで錬金術師のように生みだした瞬間に立ち会っているかのようだ。つぶやきにも似たヴォイスと、的確なビートを刻み続けるギターから紡ぎだされる一人っきりの音楽。これこそが僕にとってのボサノヴァなのだ。おなじみの曲が続き、思わずハミングしている僕。と、隣のマダムはなんと、ちゃんとポルトガル語でシンガロングしてる、さすがエトランジェの街、パリ。

 そういえば、ジョアン自身が異邦人、もしくは漂白の人ってイメージ。そんなヴァガボンドな生き方とボサノヴァはパリにとてもしっくりとくる。スタンディング・オベーションの嵐の中、アンコールはあのデビュー曲「シェガ・ヂ・サウダージ」一曲で幕。さすがボサノヴァの化身、去り方も潔く、実にあっさりしたもの、「ギター抱えた渡り鳥」ってな風情(?)。まさに、ブラボーな夜でした。

Copenhagen – Paris  june > july.2001 vol.01

June 30th, 2001

Copenhagen

 Column Image Haus L-1
ヤコブセンの集合住宅
 Column Image Theater L-1
映画館
 Column Image Dog L-1
犬OK、BUT禁煙車!?

昨年に続いて、今年も6月末から7月にかけて、2週間ほどコペンハーゲンとパリに大買付ツアーを敢行しました。例によって、相方のT嬢ともどもの珍道中。モチロン、北欧系椅子をはじめ、物欲爆発。コンテナ一杯の逸品が只今スエズ運河あたりをば、しずしずと航行中のハズ。9月中には入荷の予定です。興味がある方はFUNITUREのページをクリックして、入荷予定の品々をチェックしてみてください。
 今回のツアーも、朝6時起床、一日中歩きっぱなしというハイ・テンションぶりでしたが、コペンとパリで各一日だけ、とてもスペシャルな時間を持つことが出来ました。

 まずは、コペンハーゲンから電車で15分ほどに位置する“ベルヴュー・ビーチ”巡礼。ここは、僕らが敬愛するアルネ・ヤコブセンが1931年から1961年にかけてデザインした“未来型”レストラン、映画館、集合住宅などが現存している(モチロン使用されてもいる)という、夢のようなデザイン聖地。バリア・フリーを世界に先駆けて発想したデンマーク、コペン市内はどこも自転車専用道路が完備されて、歩く人も安心、自転車の人もスイスイ。「そこ除けそこ除け」とばかりに、灯火もなしで、我が物顔の自転車野放しニッポンとは雲泥の差。乗る人も乗らない人にも配慮されてる。電車にだって自転車を持ち込めるし、ああ、電車といえば、犬OK、BUT禁煙車なんて車両があったりして嬉しくなってしまう(ちなみに別にちゃんと喫煙車もあり)。

 Column Image Restaurant L-1
ヤコブセンレストラン
 Column Image Coast L-1
監視塔

 さて、ビーチへと向かえば、これもヤコブセンがデザインしたチャーミングな監視塔が目にはいり、その下ではいましも海から上がったばかりの男性がスッポンポンで、口笛を吹きながら実に優雅にお着替え中。多分ついさっきまで、7月とはいえまだ冷たい北海で海水浴を気持ちよーく、ノーパンで堪能したのであろう。はしたなくも、デバガメよろしく、ついLOMOで激写したニッポン人は、いざ念願のレストランのランチ・タイムへと突入。
 店内はエッグ、スワン、セブン、オックスフォード、そして幻の子供用椅子、そしてカトラリーまで、ゲップがでるほどのヤコブセンづくしのインテリア。ところが、外のテラスに席を取った僕らのカトラリーはヤコブセンじゃない!スタッフを問いつめると、なんと、ヤコブセン好きのヤカラがぜんぶ失敬してしまうらしく、店内はさておき、テラスでは現在使用していないと、にっこり顔で説明され、唖然・・・、というか、やっぱりネー、ファン心理は世の東西を問わずってわけだ。で、僕はアント・チェアが表紙になったメニューをば失敬。まったく、油断も隙もないニッポン人なのであった。