間違いなく、中国へやって来た。

ひょん | 旅 社会科
DATEJun 6. 25

出発間際になって、現地の気温を調べたら、なんと41度だったが、いまさら引き下がれないと、観念する。タクラマカン砂漠へ行こうというのだから、観念する。
そこは<新疆ウイグル自治区>。中国の西の果てにあるウイグル人を含んだ他民族がミックスする「西域」で、「国家」としては中国に属している。タクラマカン砂漠という広大な”土漠地帯”に点在するオアシス都市を結ぶ<天山北路>と呼ばれたシルクロードへの旅である。

「なんでまたソンナトコロへ」と言うなかれ。これでも、1980年代、NHKで月一回放映されていたドキュメント番組『シルクロード』に触発され、なかんずく石坂浩二のナレーションに惹かれた昭和の人間なのだからだ。とんでもなく荒涼とした自然に散らばる古代遺跡と、さまざまな民族が争い、混交、交流したであろう大地。ここは足腰が立つうちに、なんとしてもイカズバナルマイ。
何より自分は貿易商人の末裔のハシクレである。だから、ローマから西安までの貿易ルートをラクダに乗り、命を賭して先輩たちが歩き迷ったであろう砂漠を、少しでも辿ってみたかったのだ。

7泊8日でウルムチ、トルファン、敦煌、嘉峪関とその周辺の遺跡や博物館を巡る旅は、まず西安から始まった。その間、滞在は各地一泊で、飛行機や汽車、そして車を使っての長時間移動となるから結構タイトだ。手際良く回るために、今回はいつもの自業自得旅と違って現地の旅行社に通訳を含め、すべてお世話になることにした。
その理由:
①西域は英語が通じないらしく(実際、ホテルのフロントさんも含めて、ほとんどダメだった)、タクシーなりでの遺跡巡りの移動手配がありすぎる。中国内の飛行機と汽車移動もあり、その際、手続きを含め言葉の難儀が予想される。
②何にしても、チェック体制が厳しい(空港、汽車、遺跡、博物館など、どこでもパスポート、手荷物の検査まである)。
とまあ、聞きしに勝る厳しさは、民族問題がくすぶる「新疆ウイグル自治区」だからだったからなのだろうか。いや、中国はどこもそんな感じなのか。

さて西安だ。昔は「長安」と呼ばれたシルクロードの東の終点&西からは始発点だが、ここが漢民族の都になったのはBC11世紀というからギリシャ文明の始まり頃か。それ以来2000年間にわたって、13の王朝がこの地を都としてきたけど、各王朝の寿命は短く、最終的に唐が支配して最長300年続いた。日本との交流はご存じ阿倍仲麻呂や空海。唐の絶頂期に渡ったのだから長安の都の威容にさぞタマゲタに違いない。阿倍さんは超真面目な留学生で、最期を唐で迎えたひと。かたや空海さんは、仏教を日本に伝えたひととして知られるが、実はなかなかの隅に置けないひとで、たくさんの経典ばかりではなく様々な品々を日本に持ち帰って来たらしい。「買付旅」だったのだろうかな。

西安でガイドをしてくれたのは、楊(ヨウ)さんという女性。福岡へは何度か訪日ツアーのガイドで来たことがあるという小柄でおかっぱ、ハキハキした日本語も聞き取りやすかったので大いに助かりました。
彼女が最初に案内したのは<大雁塔>。西遊記でお馴染みの三蔵法師ゆかりの地で、大雁塔は彼がインドから持ち帰った数々の経典の保存と翻訳のために建設されたとのこと。三蔵法師がシルクロードを経て「買い付けて来た」のは7世紀。インドだけではなく、そろそろイスラム文化も西安に入り始めたころかな。そのせいか、塔は日本の寺の五重塔とは違い、力強く、建築的でモダンなので驚いた。境内では一般人も含めて、お経の大合唱が響き渡り、それは日本のおおごそかな念仏とは違って、コーラスのように力強かった。

そのあと、西安の旧市街にある<回民街>へ行った。そこはイスラム教徒である回族のコミュニティが形成されたエリアで、イスラムと中国がミックスしたB級グルメ屋台のメッカ。僕らは脇道のマーケット街へ入り込み、さっそく「モノ」を物色、たくさん並んだ店で、瑪瑙(メノウ)や清の時代の「錠前」を買い求めた。中国では石を「玉(ぎょく)」と呼び、人々はとても珍重する。美しさとパワーストーン的神秘性なのか、なんだか興味深い。原石を、それも瑪瑙(メノウ)買うのは初めてなので、面白かった。

夜は、明代に建てられた<西安鐘楼>に面した中華料理屋で「餃子のフルコース」をいただいたが、「焼き餃子」じゃなかったし、量が多すぎて、しかも味が淡白(その後7日間、朝、昼、晩と食べた地元料理はどれも薄味だった)。窓の外に見える西安鐘楼は、ランドマークらしくライトアップされ、漢の時代のど派手な衣装を着たたくさんの女性が鐘楼をバックにコスプレ大会の最中だった。インスタ用の動画撮りらしい(その後、各地の観光地でこの漢服のレンタル屋さんを見かけたし、それを着てラクダに乗った女性もいたっけ)。
間違いなく、中国へやって来た。