”車は走るためにある止まるためじゃない”

info | ひと 映画・音楽
DATEOct 3. 22


 ジャン=リュック・ゴダールが逝ってしまった。死因は「自殺幇助」だという。しかし、関係者によると「彼は病気ではなく、疲れ切っていたんだ」とのこと。そのほうがゴダールらしいと思うのは僕だけだろうか。 
 あの昔、西鉄福岡駅南口側に「センターシネマ」という1本立て2番館の名画座があって、高校生だった僕は気の知れた友と一緒に、学割でヨーロッパ映画をたくさん見た。『恋するガリア』,『昼顔』,『獲物の分け前』,『ある晴れた朝突然に』などという”後味が悪い映画”にシビれかけていたわけだが、それにとどめを刺したのは『勝手にしやがれ』だった。
 ジャン=ポール・ベルモンド演じるチンピラ・ギャングのミシェルは死ぬことしか考えていない。ジーン・セバーグ演じるパトリシアはアメリカの留学生。生きることしか考えていない。一夜を共にした二人だが、お互いに理解し合えないのはしょうがない。パトリシアは警察に密告し、疲れっ切ったミシェルは警官に背中を撃たれ、「最低だ」という言葉を残して死ぬ。これは、その後の『気狂いピエロ』でやはり主人公ピエロを演じたベルモンドに「地中海にようやく永遠を見つけた」と独白させ、ダイナマイトを頭に巻きつけ自死させてしまう。ジャン=ポール・ベルモンドはゴダールの化身だった。
 『勝手にしやがれ』の古い映画パンフレットを探し出し、再録された1962年の《カイエ・デュ・シネマ誌》でのゴダールのインタヴューのページをめくってみた。そうしたら、こんなことを言っていた。
 「わたしは即興的にことをはこぶかもしれない。が、その材料となるのは、古い歴史を持っているのです。数年にわたって多くのものを蒐集する。そしていきなり、撮っている作品にそれをぶち込むのです」
 ゴダールは自身がアナーキーだった点を認めている。しかしそれは思いつきでの突飛な行動とは違うインテレクチュアルな行動原理に基づいていたと思う。ゴダールは、過去に累積するさまざまな歴史を自分なりに批評し、そこから抽出した視座を映画に投入し、その破天荒な撮影と編集スタイルでデビューした。ところが「ダメ元」を承知で作った映画が大成功してしまった。ゴダールは困った。苦痛だったとさえ言っている。『勝手にしやがれ』という映画は、ジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグのドキュメントであり、つまりゴダール自身を投影した擬似ドキュメントだったからだ。
 「映画に革命を起こした」ゴダール自身は、しかし、その後も幾つもの問題作を発表する。彼なりのサービスを提供した映画もあったが、『勝手にしやがれ』ほどの大衆の支持を得ることはなかった。それならばと、共産主義を礼賛する政治的映画を撮ったが「難解で退屈だ」といわれた。でも、自身の映画への熱情は終生変わることがなかった。そして、ダイナマイトを頭に巻きつけこそしなかったが、尊厳死を選ぶことで「自分自身のドキュメント」にエンドマークを記した。
 ジャン=リュック・ゴダールが天才と呼ばれることには違和感がある。確かに「映画に革命を起こした」かもしれない。いや違う。かれは、自分に与えられた休暇を、死者として、疲れ切るまで生きただけだ。そして勝手に帰還した。
 『勝手にしやがれ』の中で、ベルモンドにこんなセリフを言わせている。
 ”車は走るためにある止まるためじゃない”

※写真は〈SOFILM〉2015年#31より抜粋。
 
 

再入荷しました

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DATESep 25. 22

メラニー・ディコーセイと、モニカ・カスティリオーニなどのジュエリーが、少し再入荷しております。
オンラインショップに紹介できたラインナップはこちらから、ご覧ください。
再入荷アイテム>>
店頭にはこれらのアイテムなどが並んでおります。どうぞご覧になりに、お越しください。
今月はあと9/29(木)・9/30(金)の2日間がオープンの日となります。

カラフルな発色で、店頭でも好評いただいておりますアリス・パークのレザー・アイテムは、
一部商品が現在の在庫限りで、販売を一旦休止いたします。
気になるアイテムがございましたら、ぜひこの機会にお求めください!
Alice Park>>

アイテム更新

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DATESep 11. 22

フィンランドから届いた荷物をおもに、アイテム更新しました。
アルヴァ・アアルトのアイテム、フィンランドのヌータヤルヴィ社製、イッタラ社製のヴィンテージグラスウェア。他にもアラビア社製のテーブルウェアと、バーント・フリーベリの器などをラインナップしています。
他にもウッドやステンレスアイテムなど色々なものが載っています、どうぞご覧ください。
最新ラインナップページ>>

カゴンマ、行ってきたバイ。

info | ひと 旅 社会科
DATESep 6. 22


 ずいぶん久しぶりに鹿児島へ行ってきた。気晴らし半分、仕事半分(いや3割か)だったのだが、結局、色んな人に会う旅だったと思う。言葉が通じるということはあるものの、パスポートなしで外国へ行ったかのような気分だった。他国(といっても日本)の人間には意味不明だった昔の薩摩弁だが、今ではほぼ消滅しているから、言葉は通じるものの、その分、イントネーションの違いが際立つ。ざっくり言えば、奄美や沖縄からフィリピン、インドネシアあたりに通じるような「鷹揚なのにレスポンスは迅速」という、つまり北部九州の「せっかちな割に態度は曖昧」とは真逆の有り様なのだ。
 鹿児島に着き、まずイラストレーターの江夏潤一さんと一緒に、黒豚のとんかつランチの後に鹿児島名物の白熊を食べながら、来年はぜひ個展のようなことをやりましょうとオファーして了解してもらった。彼の絵は可愛いだけでなく、ペーソスがあるから、僕は昔からファンなのだ。語り口はおとなしい。しかし、時々チクリとする。まるで絵を地でいくような人なのだ。毎年開く台湾での個展が好評で、本人ものんびりとした風土が性に合うらしく、ついつい長居してしまうらしい。そういえば「江夏」と書いて「えなつ」ではなく、「こうか」と発音するところからすると、渡来人の末裔かもである。
 次に会ったのは、先日organでポップアップ・イベントをやってくれたリュトモスの飯伏正一郎くん。風貌はどこかネイティブ・アメリカンで、実際、彼が作る革製品には「動物の生きた証し」を受け継いでいきたいという、ロマンティックだが、しっかりとした思いが込められている。語り口が雄弁なだけに、時折混じる鹿児島イントネーションがチャーミングだ。そんな彼だからか、鹿児島の色んなクラフト仲間とのコラボレーションを通して、作品にも面白い化学反応を起こすことだ出来るのだろう。その際のポイントは、「お互いに、いつもの作風ではないものをあえて出し合う」ことらしい。いいなあ、他者感が生み出す異化作用。
 盛永省治くんは、そんなクラフト仲間の一人。木の塊から形を生み出すウッドターナーとして知られている。久しぶりの再会だったが、いつもの笑顔で快く近作を見せてくれた。それは旋盤を使った作品とは違って、手を使って削り出した彫刻だった。僕はいつか彼のそんな作品を見たいと思っていたから嬉しかった。展示会用に準備したという数点の中から、迷った挙句、ハンス・アルプへのトリビュートを勝手に感じたものを、一つだけ頂戴した。しかし案の定、店で販売するか今もためらっている始末。
 締めは、タイミングよく鹿児島に滞在中だった岡本仁さんとの夕食。編集者として鹿児島の魅力を伝えてくれた人なのだが、北海道の出身である。本人は「寒いのが苦手だったので、温かいところへのあこがれが…」と仰るが、果たしてそれだけの理由だったとは思えない。岡本さんは確か、外国、中でもアメリカのカルチャーに強い人だったのだが、それが鹿児島とシンクロしたにちがいない。その証拠ではないけれど、現在の岡本さんは、国内を旅しながら、自分の目を通した地域の魅力を、その歩くようなテンポの文章で”暮しの手帖”に連載中だ。自分が知らないことを隠さず、知ることの面白さを発見することは、なんだかアメリカっぽい気がする。
 そういえば、鹿児島県歴史・美術センターを訪れて思ったことがある。同じ九州だが、北と南ではその歴史に大きな違いがあるということだ。古来から中国、朝鮮の体制や文化を東シナ海もしくは対馬海峡という、地理的にはそれほど遠くない地域から取り入れた北部と、近世になって、はるか遠くヨーロッパからの南蛮文化に遭遇した南の薩摩は、違っていて当たり前だ。それは、仏教を受容し、後に日本と呼ばれる「律令国家」を建設理念とした大和政権と、「クニ」という自治の観念を持つ薩摩が、鉄砲伝来を期に「近代国家」を構想した違いにあるようか気がする。なにしろ、薩摩は1867年のパリ万博では徳川幕府に対抗して参加したわけだから。きっとアメリカでいえば「州」のような独自の存在を自負していたに違いない。
気が付くと、濃厚な2泊3日があっという間に終わっていた。終わってしまうと、旧知の友人と会い、話をした余韻がぐるぐる頭のなかで巡っている。

 以下は、カゴンマ弁を借りた私的おみやげです。
ほんなごつ、よんなかはちんがらっじゃ。そいじゃが、なこよかひっとべ!ぎをゆな、てげでよかが。
…本当に世の中はめちゃくちゃだ。しかし、泣くより飛んでみろ!文句を言うな、適当でいいよ。
(写真:鹿児島県歴史・美術センター蔵)

“pass the modernism”

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DATEJul 25. 22

様々な変化や事象に出会う日々が続いています。そのどれもが、私たちにそれなりの対応を迫っているかのようです。そんな時にふと思うのです。私たちが日常意識せずに継承してきた言葉や物のことを。例えば「モダニズム」。そこには”可愛い、おしゃれ”なだけではない、先人たちの未来へのメッセージがあるのかもしれません。それは、ひょっとすると”pass the modernism”、「モダニズムを引き継ぐ」ということ、なんてね。今回は、そんな側面を持つであろう椅子をご紹介します。
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アイテム更新 “Melanie Decourcey”

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DATEJul 17. 22

ドイツ出身のアーティスト メラニー・ディコーセイによるジュエリー類を、アイテム更新しました。
4月以来ぶりに、まとめてオンラインショップに登場するアイテムは、自身のオリジナル・シルバーパーツと天然石を自由に組み合わせたネックレスを中心としたラインナップです。どうぞご覧ください。
Melanie Decourcey>>

アイテム更新

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DATEJul 3. 22


アイテム更新しました。
ドイツで活躍したデザイナー、ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルトの仕事を知る上でとても資料製の高い、回顧展図録(1987年出版)が入荷しました。それに合わせて、涼やかな色味とフォルムが目に優しいヴァーゲンフェルトのプロダクトを紹介。カイ・フランクのグラスウェア、スティグ・リンドベリのテーブルウェアと、カール・オーボックのヴィンテージアイテムも同時更新。
Lightingコーナーにはリサ・ヨハンソン・パッペのシーリングランプなどもアイテム更新しています。
どうぞご覧ください。
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イベント案内「小柳帝が2022年公開の映画を語る」

info | news
DATEJun 28. 22

まもなくやってくる7月最初の週末に、小柳帝さんのイベントが開催されます。映画鑑賞がこれまでよりも数倍楽しくなる、人気のトークイベントです。ぜひご参加ください。

「小柳帝が2022年公開の映画を語る」
〜上半期のベストと下半期の見どころ〜

福岡で年末恒例だった「小柳帝のシネマゆく年くる年」はコロナ禍でここ数年開催できておりませんが、2022年も折り返したばかりの7/2(土)の夜、『小柳帝のバビロンノート』の原点でもある大橋のインテリア・ショップ「organ」にて、今年の上半期公開映画のベストと、下半期の見どころについて語る、まさに「ゆく年くる年」的なトークイベントを開催することになりました。最近力のある新作が目白押しの日本映画シーンについても語ります。「ゆく年くる年」にご来場頂いていた方も、そうでない方も、ぜひ大橋まで遊びにいらしてください!

当日、福岡ではなかなか購入しにくい『小柳帝のバビロンノート 映画についての覚書1〜3』の販売も予定しております。

日時:7/2(土)20:00〜21:30

会場:organ(西鉄大橋駅西口駅前)
https://organ-online.com

予約制:下記アドレスまでメールにてご予約を承ります(お席には限りがございます)
ecole.rova@gmail.com
*タイトルを「映画講座参加希望」とし、お名前(フルネームで)、お持ちの携帯の番号をお書き添えの上、お申し込みください。

参加費:1500円

小柳帝 mikado koyanagi
ライター・編集者
映画・音楽・デザインなどの分野を中心に、さまざまな媒体で執筆活動を行なっている。主な編・著書に、『モンド・ミュージック』、『ROVAのフレンチカルチャー A to Z』、『EDU-TOY』『小柳帝のバビロンノート映画についての覚書1〜3』、また、翻訳書に『ぼくの伯父さんの休暇』『サヴィニャックのポスター A-Z』などがある。その他、CDやDVDの解説、映画パンフレットの執筆等多数。自身が主宰するフランス語教室ROVAはこの春で23周年を迎えた。
https://ecole-rova.com/

ヴィンテージを巡るよもやま話。

info | ひと カルチャー デザイン・建築
DATEJun 26. 22

遅ればせですが、4月15-17日に開催したRHYTHMOSの47CARAVAN(ヨンナナキャラバン)の事後報告です。
と言っても、いつものようなぼくの駄文ではなく、RHYTHMOSの飯伏くんがポストしているポッドキャスト<出る杭とたんこぶ>(いいタイトル!)での生トーク。行きつけのピザ屋でワインの酔いも手伝っての「ヴィンテージを巡るよもやま話」、聴いてみてくださいな。

【Season2/EP.03】47CARAVAN vol.02 福岡県 @organ

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