アントワープの居心地。

 
Img 2443 アムステルダムのセントラルにある入り組んだ運河の向こうに虹を見た。今回の買付は悪くなさそうだ。案の定、列車で着いたアントワープは適度な大きさの街で、なによりも人の表情が柔らかい。予約していたホテルにチェックイン。値段の割にはシックな部屋だがトイレは共用である。さっそく歩いて5分とかからない広場でやっているオークションへ。といっても、近所のおじさんおばさんが参加して、不要になった日用品などを競りにかけるもの。なのでさっと見学して、僕らはアンティック・ショップが並ぶストリートへと急ぐ。やはりブロカントが多いが、アールデコからキッチュまで、さまざまな店が固まっているのでありがたい。ヨーロッパは空気が乾燥していて古いモノがイイ感じに残ることができるが、日本みたいに湿気が多いとボロボロになってなかなかいい状態では残らないのだろうか。なかには古いモノとそれ風に作った今モノが混在している店があるのもご時世なのか。
 そんな古色を帯びたモノ達がまるでレイヤードのように雑多に重なっているのだが、なかでも興味を惹かれたのは<The Old And The Beautiful」>という店。ここは主にスウェーデンの17世紀くらいの家具を扱っているちょっと異色な存在。長い間に幾層にも塗り重ねられた色を、店主が少しづつ剥離してほぼ生地の状態に戻した椅子やキャビネットが、イームズのアルミナム・チェアなどと不思議なマッチングをしている。ただし値段は相応に高い。僕は1940年代にファイルされた植物標本を20枚ほど買い求めた。図鑑などは時々見かけるのだが、本当の植物が丁寧なデータを添えて保存されているのは初めてだった。もちろん、色々な形の花や草を各々見事に配置した植物学者であろうその人の美意識が並々ならぬものだったからなのだ。
 Img 2340 一通り見終わってランチのために同じストリートにある<ra>というカフェへ。若い男子スタッフ達はいづれもアントワープらしく個性的なお洒落さん。立ち振る舞いからゲイと見た。フレッシュな季節のキノコとプリプリした食感の大麦サラダ、カボチャのパスタに白のビオワインが疲れた体に優しい。店の奥にはギャラリーがあり、ちょうどその時にはアントワープの若手のデザイナー達による服や雑貨のセールが行われていた。結局滞在中に昼夜合わせて4回訪れてしまうほど居心地の良い場所でした。
 翌日はホテルの前の広場で蚤の市。さっそく朝7時過ぎから出動して仕事開始。ガラスドームに入った骨の標本や、「コレ何に使うんだろう?」的道具やオブジェなどを買う。アフリカのマスクを売っているおじさんからはコンゴの敷き布を発見。以前から欲しかったものなので嬉しかったが値引きはなし。「パリではこの2倍はするよ」の言葉を信じてのことだ(確かに、その後クリニャンクールで見かけたがその通りだった)。どうしてこんなところにアフリカものが、と不思議に思う。ベルギーが昔コンゴを植民地にしていたことと関係があるのだろうか。
 Img 2387 そんなわけで、まずまずの成果をあげた僕らは、中世に貿易港として栄えたスヘレデ河岸にたたずみ、多分当時と変わらない茜色の夕日にため息を漏らしながら一服したのでありました。